2011年04月07日 芥川受賞者西村賢太
「文藝春秋」は昔、読んでいたが、最近では滅多に読まない。ただ、日本でいちばんメディアが注目している文学賞である芥川賞および直木賞の作品が掲載された際には、購入することもある。それも、興味のある作家が登場した時だけだ。
TVで第144回目となる芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)が、2011年1月17日、東京都内で発表され、このときの模様が放映された。
芥川賞には「きことわ」(朝吹真理子さん)と「苦役列車」(西村賢太さん)、直木賞には「漂砂のうたう」(木内昇さん)と「月と蟹」(道尾秀介さん)のそれぞれ2作品が選ばれた。(株)文藝春秋の創業者菊池寛が新人の小説作品に対して芥川賞・直木賞を創設し、以降年二回発表されている。
インタビューにも慣れていないのであろう、目の焦点も定まらない労働者風のがっしりとした「おっさん」が画面に映された。この賞とは場違いの人物を注目していると、受賞に対してのインタビューの第一声が奮っていた。
記者からの「(芥川賞の)受賞の報を受けたときは何をされていましたか?」との質問に、西村さんは、「自宅にいて、そろそろ風俗に行こうかなと思っていました 」
会場の注目が集まったのは、中卒のフリーターで、親子二代の逮捕歴を持つという芥川賞受賞者・西村賢太さんだ。時の人となった。
10名の選考委員のもとにより2時間に及ぶ討議が行われ受賞者が決定されたようだが、どのような話し合いが行われたのか不明である。だけど、各委員の選評により話し合われた内容は、ほぼ推察できた。
「苦役列車」の選評をひらい読みしてみると、評価は二分しているようだ。
「苦役列車は体臭の濃すぎる作品だが、この作者の「どうせ俺はー」と言った開き直りは、手先の器用さを超えた人間のあるジェニュイン (まがい物でない、本物)なるものを感じさせてくれる。超底辺の若者の風俗といえばそれきりだが、それにまみえきった人間の存在は奇妙な光を感じる」と石原慎太郎が語っている。愛すべきろくでなしの苦役が芥川賞につながったかと思うと愉快でたまらないとも評価されている。
一方では、苦役列車は「人間の卑しさと浅ましさをとことん、自虐的に、私小説風に描いている」と酷評されている。読むのも疎ましいと言わんばかりだ。
早速、文芸春秋を買い込み一挙に読みきった。
総てを削りおとした人間の姿とは、元来このようなもと立ち止まってしまった。現代社会の都市での底辺で生きている片隅で、食欲と性欲にだけ明け暮れ、住家は滞納家賃を踏み倒し、点々する駄目男であるかのように誇張した筆致で自分を描いている。
だが、少し観点を変えて小説を読むと、「卑しさと浅ましさで辟易‥」でもない。人間が自然を相手に何万年、いや何百年前から長年に渡って生延び、培われた本能を解き明かしている。人間が鎧のようにつけている理性であり、社会であり、文化など総てを剥ぎ取った後に、持っている生命力みたいなものを感じさせてくれた。読後、色んな思いが交錯したが、やはり印象に残ったのは最後の一節であった。
「最早誰も相手にせず、また誰からも相手にされず、その頃知った私小説家、藤澤清造の作品を常に作業ズボンの尻ポケットにしのばせた、確たる将来の目標もない、相も変わらずの人足であった」と締めくくっていた。
話が変わるが、設立当時から受賞者には正賞として懐中時計が贈られてきた。懐中時計と云えば、ひも・鎖で帯やバンドに結びつけて、ふところやポケットに入れて携帯する小型の時計である。西村賢太氏にロンジンの懐中時計が似合うであろうか‥。少し気がかりだ。
ところで、芥川賞を取らなかった名作があるから世の中救われる。
太宰治←クリックほど芥川賞を熱望した者も、珍しいといわれた。
太宰治が選考委員の佐藤春夫や川端康成らに宛てた受賞を請う手紙が残っている。「佐藤さん一人がたのみでございます。私は恩を知って居ります。私はすぐれたる作品を書きました。これからもっともっとすぐれたる小説を書くことができます」佐藤春夫宛書簡)「何卒 私に与へてください。一点の駆引ございませぬ」(川端康成宛書簡)。太宰治はこれらの要望書を送った。が、芥川賞が貰えず、文壇で大喧嘩となったことは有名である。 現在、代表作「人間失格」「走れメロス」は、若者層に異様なほどの人気を誇っている。夏目漱石の『こころ』と何十年にも渡り累計部数を争っている名作である。
中卒の西村賢太さん、芥川賞にあぐらを欠かず、東大生の太宰治のように邁進されたい。
TVで第144回目となる芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)が、2011年1月17日、東京都内で発表され、このときの模様が放映された。
芥川賞には「きことわ」(朝吹真理子さん)と「苦役列車」(西村賢太さん)、直木賞には「漂砂のうたう」(木内昇さん)と「月と蟹」(道尾秀介さん)のそれぞれ2作品が選ばれた。(株)文藝春秋の創業者菊池寛が新人の小説作品に対して芥川賞・直木賞を創設し、以降年二回発表されている。
インタビューにも慣れていないのであろう、目の焦点も定まらない労働者風のがっしりとした「おっさん」が画面に映された。この賞とは場違いの人物を注目していると、受賞に対してのインタビューの第一声が奮っていた。
記者からの「(芥川賞の)受賞の報を受けたときは何をされていましたか?」との質問に、西村さんは、「自宅にいて、そろそろ風俗に行こうかなと思っていました 」
会場の注目が集まったのは、中卒のフリーターで、親子二代の逮捕歴を持つという芥川賞受賞者・西村賢太さんだ。時の人となった。
10名の選考委員のもとにより2時間に及ぶ討議が行われ受賞者が決定されたようだが、どのような話し合いが行われたのか不明である。だけど、各委員の選評により話し合われた内容は、ほぼ推察できた。
「苦役列車」の選評をひらい読みしてみると、評価は二分しているようだ。
「苦役列車は体臭の濃すぎる作品だが、この作者の「どうせ俺はー」と言った開き直りは、手先の器用さを超えた人間のあるジェニュイン (まがい物でない、本物)なるものを感じさせてくれる。超底辺の若者の風俗といえばそれきりだが、それにまみえきった人間の存在は奇妙な光を感じる」と石原慎太郎が語っている。愛すべきろくでなしの苦役が芥川賞につながったかと思うと愉快でたまらないとも評価されている。
一方では、苦役列車は「人間の卑しさと浅ましさをとことん、自虐的に、私小説風に描いている」と酷評されている。読むのも疎ましいと言わんばかりだ。
早速、文芸春秋を買い込み一挙に読みきった。
総てを削りおとした人間の姿とは、元来このようなもと立ち止まってしまった。現代社会の都市での底辺で生きている片隅で、食欲と性欲にだけ明け暮れ、住家は滞納家賃を踏み倒し、点々する駄目男であるかのように誇張した筆致で自分を描いている。
だが、少し観点を変えて小説を読むと、「卑しさと浅ましさで辟易‥」でもない。人間が自然を相手に何万年、いや何百年前から長年に渡って生延び、培われた本能を解き明かしている。人間が鎧のようにつけている理性であり、社会であり、文化など総てを剥ぎ取った後に、持っている生命力みたいなものを感じさせてくれた。読後、色んな思いが交錯したが、やはり印象に残ったのは最後の一節であった。
「最早誰も相手にせず、また誰からも相手にされず、その頃知った私小説家、藤澤清造の作品を常に作業ズボンの尻ポケットにしのばせた、確たる将来の目標もない、相も変わらずの人足であった」と締めくくっていた。
話が変わるが、設立当時から受賞者には正賞として懐中時計が贈られてきた。懐中時計と云えば、ひも・鎖で帯やバンドに結びつけて、ふところやポケットに入れて携帯する小型の時計である。西村賢太氏にロンジンの懐中時計が似合うであろうか‥。少し気がかりだ。
ところで、芥川賞を取らなかった名作があるから世の中救われる。
太宰治←クリックほど芥川賞を熱望した者も、珍しいといわれた。
太宰治が選考委員の佐藤春夫や川端康成らに宛てた受賞を請う手紙が残っている。「佐藤さん一人がたのみでございます。私は恩を知って居ります。私はすぐれたる作品を書きました。これからもっともっとすぐれたる小説を書くことができます」佐藤春夫宛書簡)「何卒 私に与へてください。一点の駆引ございませぬ」(川端康成宛書簡)。太宰治はこれらの要望書を送った。が、芥川賞が貰えず、文壇で大喧嘩となったことは有名である。 現在、代表作「人間失格」「走れメロス」は、若者層に異様なほどの人気を誇っている。夏目漱石の『こころ』と何十年にも渡り累計部数を争っている名作である。
中卒の西村賢太さん、芥川賞にあぐらを欠かず、東大生の太宰治のように邁進されたい。
Posted by
nonio
at
11:35
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2
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書籍
この記事へのコメント
パルさん
こんにちは
信楽での絵画展が無事完了でき「ほっと」されたことでしょう。
これを契機に再び絵画展に挑戦してください。
こんにちは
信楽での絵画展が無事完了でき「ほっと」されたことでしょう。
これを契機に再び絵画展に挑戦してください。
Posted by nonio at 2011年04月13日 11:45
こんばんは~♪
先日ご覧頂きました信楽での絵画展、お陰様で無事終了させて頂きました。
ほうざんさんの素敵な建物と陶、風さんの優しい詩 皆さんの温かさに包まれ良い思い出ができました。
ご親切に有り難うございました。
先日ご覧頂きました信楽での絵画展、お陰様で無事終了させて頂きました。
ほうざんさんの素敵な建物と陶、風さんの優しい詩 皆さんの温かさに包まれ良い思い出ができました。
ご親切に有り難うございました。
Posted by パル at 2011年04月12日 19:20
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