2012年06月25日    ガス中の恵那山

 ガス中の恵那山 岐阜県と長野県の県境の中央アルプス、その最南端に恵那山がある。この山は私にとって、北や南アルプスへ行く途中の通過点に過ぎない、中央自動車道の恵那サービスエリヤで見る程度であった。

 一昨年、歴史好きの仲間と木曽路の宿場を逍遥した。中山道の贄川(にえかわ)から馬籠(まごめ)までに11の宿場がある。この間を木曽路と呼ばれている。 1日目、馬籠~妻籠間の山越え、翌日、贄川関所・奈良井宿へ。昔日の風情が残る街道を散策しながら、五平餅をほおばり、江戸時代にしたりきった。 旅の最後に訪れたのが、木曽川の激流で岩石が浸食されて出来上がった巨岩・奇岩のある「寝覚の床」も訪れ、想いで深い旅であった。

 そんな中、私の目線は恵那山の山稜を追っていた。この圧倒的な存在感のある恵那山が鮮烈に脳裏に焼きついてしまったと同時に、体力がある内に、頂きを、どうしても極めたいと、心に誓った。

ガス中の恵那山

 後日、藤村が、馬籠宿の旧本陣で生まれ、少年時代を過ごした「島崎藤村」記念館に寄ったことを思い出し、「夜明け前」の小説を「ぱらぱら」とめくってみた。明治維新のあわただしい時代の移り変わりを描いた歴史小説である。木曽の山中を舞台にした主人公半蔵の半支配階級の世界は全く興味がなかった。が、私が馬籠から恵那山を眺めていたものと同じ情景の一文に出くわした。

―広い空は恵那山のふもとの方にひらけて、美濃の平野を望むことのできるような位置にもある。なんとなく西の空気も通って来るようなところだ。<中略> 古い歴史のある御坂越をも、ここから恵那山脈の方に望むことができる。大宝の昔に初めて開かれた木曽路とは、実はその御坂を越えたものであるという。その御坂越から幾つかの谷を隔てた恵那山のすその方には、霧が原の高原もひらけていて、そこにはまだ古代の牧場の跡が遠くかすかに光っている―
 御坂越とは、中央アルプスを越える東山道の「神坂(みさか)峠」のことである。近江を起点とし東国を結ぶ東山道の中で、ここが屈指の難所であった。旅人は覚悟の上で峠越えをしたところである。この荒ぶる神がいる峠を「神の御坂(みさか)」といい、「神坂(みさか)峠」と書くようになったようだ。滋賀に住む私にとっては、古道ロマンの東山道で通じていることに親近感を持った。麓にいる人をやさしく励ますように存在している恵那山が、身近な存在に思えてきた。

 この頂きが雲に覆われた写真を見ていると無性に恵那山へ行ってみたくなった。 代表的な御坂峠ルート、あるいは黒井沢ルートがあるが、いずれのコースも2日かかりである。避難小屋があるので食料さえ持てばいけるのだが、その他寝袋など持参しなければならず重荷になる。滋賀県から一日でとんぼ返ガス中の恵那山りできる身軽なコースとして広河原ルートを選んだ。恵那山頂より東北に延びる尾根筋が張り出している、これを辿ることにした。
 思い立ったのが、梅雨時期である。雨は覚悟していたが、登山開始から下山するまで、ガスの中。木谷川の木橋で渡り、ここから山頂まで「ぐいぐい」と一方的な登りには、エキエキしてしまった。視界が利かず、雲の中では結構不安が襲ってくるものだ。 野熊ノ池避難小屋方向からの主尾根にでたところから雨足も強くなり、笹原の尾根道となった。 どこをどう登ったのかわからないまま、勾配が緩やかになってきたと思ったら頂上(恵那山の三角点2189.8m)に達していた。

        三角点上にGPSを載せた高度2189m
ガス中の恵那山
 頂上は意外にも寒く、長居は無用である。ほんの10分程度休憩しただけで、急いで下山にかかった。すでに時間も遅くなり、日没も想定してヘッドランプも装着して一挙に下山。スタート地点の木橋に戻ってきたときは「ほっと」とした。山の神に感謝しながら、帰路についた。往路とも誰ともすれ違わなかった。こんな梅雨時にくる馬鹿げた人はいないようだ。

ガス中の恵那山

 

 









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Posted by nonio at 14:34 │Comments( 0 ) アルプスなど
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