2019年04月11日    たおやかな山「時の烏帽子岳」

 
  岐阜県と三重県、滋賀県の県境に位置するところに烏帽子岳(865.1m)がある。上石津の「時(とき)」地区にあるので、時の烏帽子岳と呼ばれている。

 この山を知ったのは、 いなべ市の「梅まつり」の公園から遠望した時である。美濃富士と呼ばれるだけあって、ひと際美しい山姿であった。ところで、この山は県別に47巻もある山岳雑誌『山と溪谷』の岐阜県版にさえ掲載されていない秘めた山である。この山のリーフレットに”たおやかな山”と紹介されていた。
 
 ”たおやか”と云う文字が、私をゆすぶった。漢字で表すと「嫋やか」である。人や樹、地形などについての雰囲気を伝える言葉であるが、日頃耳にしない昔の言葉である。どんな山なのか、行く気になった。

たおやかな山「時の烏帽子岳」

 細野ルートは、頂上近くで大岩コースと展望コースに分れ、上り120分・下り90分と手軽に登山ができる。

 「壬申の乱と輿越え峠の由来」の看板のある烏帽子岳林間広場の駐車場を出発。「登山者の皆様へ」 と書かれた案内板が付けられた柵の扉から登山路となった。第一展望ポイント~第四展望ポイントから大岩コースを辿り頂上へ。
 3月下旬になると温かくなってきていたが、この季節は三寒四温。雪がちらつき、高度が上がるにつれて、雪化粧に変身していった。鈴鹿山脈の藤原岳~御池岳が美しい。下りは展望岩コースを辿った。これ程身近に霊仙山が見えるとは驚きであった。

 往路の各展望ポイントから再び雄大な光景を一望できた。普段の生活ではどうしても視界は狭く、身近なものをみているが、ゆるやかに広がっていく峰々を眺めながら、”たおやか”と云う言葉が浮かんできた。

 この言葉を日常使う友人がいたので、いささか理解していたつもりである。 「たおやか」という言葉に使われている「たお」とは、「たわむ」という言葉から来ている。枝などがしなやかに曲がる様子を表す言葉である。曲がるけれど折れることがないしなやかな様子から、しなやかで美しい女性やその仕草を表す言葉である。

 それにしても、この言葉は、色んな場面でも見かける。大辞林に 「 -な乙女」 「 -な山の峰々」 「 -な舞の手振り」などの文例に見られるように、山にも「たおやか」という言葉が使われている。
「たおやかな山の峰々」という用例を解釈すると、山の峰々が、しなやかにたわみながら延びている様を表している。

 ここで、ハタと気付いた。”たおやかな山”と紹介されているのは、この山の姿でなくて、4か所も展望ポイントを設けられていることからして、たおやかな山の峰々が広がっていることを示したかったのでは、・・・・。だから、言葉として、「たおやかな山」でなく「・・・の山々」とか「・・・の峰々」が相応しいとうそぶいてみた。

 「たおやか」という言葉は、ひらがなで表記されるケースが多いが、漢字でと表記すると、「嫋やか」である。
「嫋やか」の漢字は、「たおやか」と読まれるが、「しなやか」とも読む。本来の意味は、女性の姿が弱々しく優雅で美しいさまであったり、曲がった木のような女性の身のこなしなどを云い表す言葉である。 この言葉、枕草子の「萩、いと色深う、枝たをやかに咲きたるが」に始まり「たおやかな風景」「たおやかな味わい」「たおやかな世界」「たおやかな心」と広範囲に使われている。

  この女偏に弱い「嫋」の文字からすると、「嫋やか(たおやか)」は、本来の意味合いからあまりにも逸脱しており、実のところ戸惑いを禁じ得ない、妙な言葉である。

たおやかな山「時の烏帽子岳」
たおやかな山「時の烏帽子岳」

展望ポイントからのたおやかな眺望
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Posted by nonio at 08:56 │Comments( 0 ) 岐阜の山
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