2014年01月16日    本坂を辿り大比叡

日付:  25年12月7日(土)
山名:  大比叡(848m)
コースタイム:本坂登山口 9:20 大比叡 11:30 根本中堂休憩所 12:00 ~12:40 無動寺の行者道 15:00

 滋賀県から比叡山に登るコースはいく通りもあり、コースを選択するのに迷ってしまう。その内にと思いつつ、延暦寺への表参道として古くから使われていた「本坂」を辿ったことがなかった。今回、比叡山によく出かけている山仲間が、この古道の山行を計画し案内した。

本坂を辿り大比叡  京阪電鉄坂本駅前から丸い形をした八王子山を眺めながら、出発した。大きく曲がる舗装道路の地点に、二基の常夜灯のある本坂登り口があるが、やり過ごした。段差のある石段を避け、坂本ケーブルカー駅を経由して、ゆっくりとした道を選んでいった。 山仲間は「本坂」を辿るときには何時もそうしているようだ。 
 
 ひとしきり上り一休みした。振り返ると目の前に端正な姿をした三上山(近江富士)があった。あまりにも正面に見えたので、手持ちの地図で位置関係を確認したところ、比叡山と三上山は東西線上にあることを、この時初めて知った。方位を示す磁石を持ち合わせていなかっても、この二つの山が見えさえすれば方位が判ると、ひとり悦に入った。

比叡山より三上山を望む
本坂を辿り大比叡

 ケーブルカーが開通する以前、延暦寺へ行くには、この表参道が使用されていた。多くの信徒が、喘ぎながら行き来したのだろう。古図をみると、南善坊「あかさか(垢坂)」、花摘み堂「くりさか(垢離坂)」、さらに延暦寺会館「船橋坂」と一つひとつの急な坂に名前が付けられていた。いかに多くの人々が、ここを通っていたかの証でもある。でも、誰でも通って良いと、言うものでもなかった。南善坊を登り詰めたあたりに「浄刹結界」が設けられていた。この「じょうさつけっかい」とは、これより上は聖なる領域として、女性の立入りを禁じ、登ってはいけないとされていた所だ。

 この日、山スカートをはいたヤングの山ガールが「そんなものあったことも知らずに・・・」何食わぬ顔で通過していった。無論、毎日の散策路のように歩いている老夫婦、水の補給するパイプを咥えながら身軽に駆け抜けていくトレイルランニングの人など今まで考えられなかった姿をした様々の人に出合った。この時、古道と言われる割には、訪れている人々の姿を見ていると、千年の重みを感じさせない現代道ではないかと思えた。

 花摘み堂、亀塔、と続き延暦寺会館まで上り坂である。法然堂のすぐ上に延暦寺会館があり、観光客でにぎわう根本中堂根本中堂に着いた。JR比叡山坂本駅より暦寺境内まで2時間足らずであった。土砂がむき出しになってガレ場のような足場が悪い山道もあるが、踏み跡がはっきりしているので迷うことはなかった。

 本坂を登り詰める所まで登ってくると、かなりの年月を経て一部崩れかかった石垣が現われ、そして杉の樹間越しにたたずむ祠があった。この打ち捨てられたような祠の周辺には、ただならぬ雰囲気が漂っていた。晴れた日も曇った日も同じように、光が淀んでいるようであった。かつてこの地には本殿や拝殿を持った社殿があった所だ。信長の焼き打ちまでは、この周辺にも立派な建物が並んでいたのだろう。そばにある『薬樹院之碑』の石碑の受け台の部分に、亀らしき像があるので、ここを亀塔と呼ばれていた。

 平安京の都から眺める比叡山は、優美な山姿から「都の富士」と慕われ呼ばれていた。が、この比叡山は風水から北東の方角に位置する忌み嫌う鬼門にあたるところであり、魔界に通じるという場所で、怖れられていたようである。都の魔除けとなるように寺院をたくさん造って魔物を封じ込めていた。 つまり、ここは比叡山の四大魔所(三大魔所)のひとつである天梯権現(てんだいごんげん)が、近くにあるところであった。

 話がそれるが、この大魔所のひとつである『魑魅魍魎狩籠の丘』(西塔付近)を明かりが全くない真夜中に通過していったことがあった。妖気が漂うところであった。回峰行の阿闍梨に魔よけの儀式をしてもらい、この時、「しゃべってはいけない。後ろを振り向くな・・・・」など注意された。魑魅魍魎に取りつかれてはいけないとの思いで、振り向かず、黙さず急いで通り過ぎて行ったことがあった。そんなこと信じるのと言われるが、勝手に、心も体も阿闍梨に言われた通りになってしまった。

やはり、この本坂しかり比叡山はずっしりと染み込んだ歴史がそうさせるようだ。

 比叡山は山登りを対象として開かれた山ではなく、伝教大師・最澄が山中に草庵をつくり修行し始めた山である。今なお修行のため、行者が峰々を縫い、千日回峰に励んでおられる修行の山である。この神聖な山に入山させてもらっているのだ、との気持ちで訪れたいものだ。 

穴太積み石垣
本坂を辿り大比叡
樹間にたたずむ亀塔
本坂を辿り大比叡

本坂を辿り大比叡 根本中堂で一息入れて、各局のテレビ無線中継所・防火水槽を通って 大比叡(848m)の山頂に到達した。一等三角点があるだけで、取り立てて話すこともない高台状の平凡なもので、取りあえず、その頂に足跡を印した。直ぐに引返して 根本中堂休憩所に入れてもらって昼食とした。

 下山は坂本ケーブルの延暦寺駅近くにの無動寺谷をくだった。回峯行者の拠点になっている明王堂に訪れ、ここからの坂本駅の一つ手前の松ノ馬場駅へ向かった。今回、下山に使ったので、気が付けば、下界にたどり着いていた。
 
 この「無動寺坂」は回峰行者が、東塔・西塔・横川を回り、日吉神社まで下り、最後に登るきつい登りである。この坂で、こときれた行者もいたというほどである。数年前、この坂道を朝早く喘ぎ喘ぎ登って行った時、千日回峰行の修行を行っている行者が、念仏を唱えながら走り抜けて行かれたことがあった。一瞬の出来事であった。そのスピード・力強い歩みに驚いたことがあった。現在でもこの道は修行されている道である。

 改めて、この同じ道を下山であるが、辿ることが出来、感慨深い思いで一杯であった。

回峯行者の拠点の明王堂
本坂を辿り大比叡
無動寺坂
本坂を辿り大比叡




同じカテゴリー(滋賀県の山)の記事画像
逆さ近江富士
現れた比良山系のモルゲンロート
ツツジ咲く三上山に寄せて
三上山頂上から光芒を望む
樹の節のオブジェ/三上山
笹ガ岳の「雨乞岩」絶景ポイント
同じカテゴリー(滋賀県の山)の記事
 逆さ近江富士 (2023-01-01 06:09)
 現れた比良山系のモルゲンロート (2021-05-17 06:16)
 ツツジ咲く三上山に寄せて (2020-05-25 05:39)
 三上山頂上から光芒を望む (2020-01-23 06:21)
 樹の節のオブジェ/三上山 (2019-08-11 16:59)
 笹ガ岳の「雨乞岩」絶景ポイント (2019-01-09 04:57)

Posted by nonio at 09:21 │Comments( 0 ) 滋賀県の山
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。