ぼかし肥のつくり方
1)はじめに
安全で美味しい野菜を得るために、家庭菜園を趣味として行う人が増えてきました。有機栽培を試みようとして、まず手にするのは、油カスです。種を撒いた直後に、油カスをやっている光景に出くわします。それも、かなり野菜作りに精通している人にでもみかけられます。
油カスを施肥した直後の色は、茶褐色をしていますが、段々干からびてきて黒く変色してきます。目には見えませんが、土壌には、微生物が一杯います。1gに1000万の微生物が生息しているといわれています。この微生物が油カスを食べて分解を始めるのです。油カスが窒素・燐酸・カリに分解しますと、始めて植物が肥料を吸収出来るのです。尚、最近では、アミノ酸などの低脂肪酸でも吸収できるとの報告もありますが…。
油カスが吸収可能の状態に分解するには、相当時間がかかるのです。短期間に育つ野菜であれば間に合わないのです。むしろ、生の有機肥料を施してしまうと弊害を引き起こしてきます。
発芽・生育障害
植物にやさしいはずの有機質肥料、(油カス、未醗酵の牛ふん・鶏ふん)は、土壌中の酸素を吸って醗酵が起こり、炭酸ガス・メタンガス・アンモニヤ等の有害ガスを出して土壌は、酸欠状態になります。この結果、発芽がしなくなります。たまたま、発芽しても根腐りが起こり、発育障害も及ぼし始めます。
病害虫
未熟な有機質肥料の臭いに誘われ害虫や病原菌が取り付きます。特に、害虫が卵を産みつけ幼虫が発生し、せっかく植えつけた野菜の根や葉を食べつくします。
未完の有機質肥料は、百害あって一利なしになります。
有機栽培を行うには、事前に、時間と手間をかけて微生物の力を借りて「完熟」させることが大切なんです。「完熟」したもは、百利あって一害なしになります。ここが有機栽培のコツなのです。
ぼかし肥は、昔から色々な方法で作られ使用されてきました。ぼかし肥の本当の由来は油かす・米ぬかなどの有機質肥料に山土・粘土などをまぜて醗酵させた肥料のことをいいます。土で肥料分を薄めた肥料のことを言います。そんなことからぼかし肥といわれるようになりました。 ここでは、山土・粘土を入れない純正ぼかし肥の作り方を紹介します。小生は、中島康甫氏「ぼかし肥と緩効性被覆肥料」・加藤哲郎氏「土作り入門」等を参考にして、10年ほど前から毎年、ぼかし肥を作って家庭菜園を行ってきました。
2)ぼかし肥の準備
2-1)素材選び
ぼかし肥の作り方は、地域によって特長があり、こうでなければならない決まりはありません。有機質肥料としては、油かす・こめぬか・魚かす・骨粉・牛ふん・鶏ふん・くん炭・モミガラなどが使用されています。
肥料の三要素からみると、窒素・燐酸を含んだ組み合わせが基本になり、窒素成分は、油かす類が中心となり、燐酸成分は魚かすが中心になります。そして、こめぬかは、微生物の繁殖を促す効果に優れ、醗酵促進剤としてぼかし肥に欠かせない素材です。
問題は、品質とコストです。
スイカ・イチゴ・トマトは、糖度・味を重視します。小生は、非常に高価な魚かすの添加比率を上げて仕込みます。普通のぼかし肥については、コストを主体に配合をしています。
魚かすは、非常に高価で多量に使えないのです。したがって、ぼかし肥には、燐酸成分が不足気味になりますので、この代替品として比較的に安価に入手できる化学肥料「過燐酸石灰」を直接、畑にすき込んで、補っています。
こめぬかは、各種の成分がバランスよく含まれており、特に、燐酸成分も含まれています。何より、近隣の自動精米所では、無料で貰っていますので、最も多用しています。
牛糞を添加してぼかし肥を作っていましたが、現在では、購入後、1年程度寝かして、堆肥として直接畑にすきこんでいます。鶏糞の利用も考えられますが、醗酵時、臭いが気になり、かつ、えさの成分などからして、一切使用しません。無論、鶏糞の堆肥としても使用していません。
以上より基本の素材は、こめヌカ・油かす・魚かすの3種類です。
2-2)基本の配合比
こめぬか・油かす・魚かすを1ℓ容器で、基本の配合比率は、5回:4回:1回の割合とします。
スイカ・イチゴは、魚かす比率をかなりあげ、ニンジン・ダイコンは、油カスを控えま、適宜配合比を変えます。
2-3)その他の材料
その他としてコーラン及びモミガラのくん炭が必要になります。
「コーラン」醗酵促進材を仕込み量5~10%加えています。コーラン
コーランは、有機質肥料に添加させると、発酵が確かに早まります。例えば、コーランなしでぼかし肥を仕込むと微生物の増殖がなかなか始まりませんが、そこに、コーランを少し添加し混合してやると、これが起爆剤となり、一挙に醗酵分解作用が起こり発熱してきます。抜群の効果は確認しています。だが、1kgが580円するのです。コストパフォーマンスは、あまりよくありません。
従いまして、始めは5~10%入れ、取り敢えず、ぼかし肥をつくります。土着菌がいる畑で、醗酵させた方がよろしい。
一旦作ったぼかし肥を”醗酵の種”としてかなりの割合で以降のぼかし肥に追加します。 培養された土着の微生物が、更に繁殖され、土着菌の醗酵製品ができます。
醗酵微生物資材は色々市販されていますが、あえて加えていません。むしろ、有用な土着の微生物を育てるべきと考えています。
モミガラくん炭は、ぼかし肥を作る段階からくん炭を始から添加しているケースもあるぐらい多用されてきました。そして、くん炭入りぼかし肥は、根の伸びだしがよく、細根の発生が多くなったことが知られていました。
モミガラくん炭は、多孔質で微生物が取り付きやすく、燐酸・カリ成分などのミネラルが濃縮された肥料です。特に、仕上げ時、多少ぼかし肥が湿っていても水分を吸収し、再醗酵を食い止めることも出来る優れものであるので、揃えたい一品です。
2-4)容器
発泡スチロール製の蓋付きトロ箱〔代表寸法縦50㎝X横40㎝X高さ20㎝〕をスーパーから譲ってもらったものです。用途に合わせて大小を7ケ確保しています。蓋には、穴を開けて空気の流通ができるようにしています。
約40ℓ容器では、材料10ℓ、水3~4ℓを入れます。容器の半分以上の空間をつくり、切り返しの作業もできるスペースを持たせます。
2-5)仕込み時期
1月~2月の最も寒い時期を選んで作り込みます。秋分・春分以降が最も醗酵がし易く良い時期であるといわれます。しかし、ハエなどが寄ってきて卵を産みつけ幼虫が発生し、手が付けられなくなりました。従いまして、醗酵まで時間がかかりますが、害虫が全くいない厳冬期にじっくりと作っています。
米ぬか 油かす 魚かす
コーラン くん炭 トロ箱
3)ぼかし肥の作り方
手順1混合作業
こめぬか・油かす・魚かす素材及びコーランを発泡スチロール製トロ箱に所定量を入れます。量の少ないコーラン、比重の軽いこめぬかを均一に混ぜるためには、丁寧に何回も混合します。色が均一になってきますと、作業は完了。
素材の投入 均一混合
手順2水分コントロール
水分が多くても、少なくてもうまく醗酵しないのです。水分が多すぎると醗酵熱が出にくく、嫌気性醗酵となり、アンモニアガスなどが発生し、くさい臭いがし、黒ずみべたべた状態の腐ればかし肥になります。一方、水分が少ないと急速に高温となり、灰色のぱさぱさ状態となり焼けぼかし肥になります。このコントロールが、なかなかやっかいです。
油かすと水は親水性が悪く、水を加えては、手でもみながら混ぜていきます。この繰り返しを行い、材料の水分は、手で握ると固まり、指でつつくと壊れるぐらいの状態まで水を添加します。
数値としては、50~55%。
小生は、水分を若干少なめ目にします。 というのは、均一に水分調整をしても、時間が経つと、トロ箱の底部に水分が浸透してしまい、底の部分がどうしても嫌気状態になり勝ちになります。この状態を避けるため底部、端に乾いた”ぬか”を敷くなど工夫もします。
湿り具合 仕込み状態 嫌気状態
手順3醗酵と切り返し作業
気温が高いと2~3日で醗酵し、発熱しますが、寒い冬場では、半月程度、何ら変化がありません。気長に待ちます。発熱してくると、外気温に左右されますが、1週間程度で完成できます。
醗酵の過程で活躍するのが、微生物なのです。微生物を大別すると、菌カビ・細菌バクテリヤに分けることが出来ます。
まず、糸状菌カビが発生します。分解のし易い物質を糖分に作り出します。これらの菌は、好気性の菌で、酸素を取り入れながら醗酵します。この時期が大切な時で、切り返し空気を送り込む作業が必要になります。この作業により、さまざまな菌が糖分を利用して活動を始めます。この糖分が起爆剤となって有用微生物も取り込むことができ、発熱してきます。
糸状菌は熱にやられてしまいますが、新たに放射菌と細菌が活躍して、化学的な分解を行います。有機物が次第に変化して有機質肥料になっていくのです。
切り返し作業は、有効菌の繁殖がよい60℃以下にコントロールします。温度計が無い場合は、手の感触として深く手を突っ込んで、「少し熱いな」と感じる時に切り返し作業を行います。数回行います。醗酵が完了すると、急激に常温まで下がり完成します。
注意点として
① あまり頻繁に切り返しやると温度が下がりすぎ、酵醗がとまってしまいます。もし、まだ、茶褐色の未完成品であれば、”コーラン”を再度少量添加し、水も入れて再醗酵させるとよろしい。発熱温度が、少し下がってきたと感じられると、切り返しは止めた方がよろしい。
② 不快な臭が盛ん出た場合は、醗酵でなく「腐敗」が始まっています。順調に醗酵していると、「かつおぶし」の匂いしますが、腐敗すると、悪臭が発生するので直ぐに分ります。主な原因は、水分が過多になっています。急遽、乾いた米ぬかを追加し切り返しを行うことが大切です。黒くベトベトになった嫌気性微生物を含んだ部分は、取り除くことも必要です。
糸状菌カビの発生
未醗酵の状態
手順4完成品
完成品は1週間以上、そのまま放置しておくと空気中の水分などを吸収し、べとつき、雑菌が入り腐敗し失敗したこともあります。温度が常温になると、すばやく、遮光される黒ポリ袋90リットル(900X1000)を二重にして、袋詰め保管します。このとき、くん炭(数%)を混ぜ込み多少出来上がりが、べとついていても、くん炭が水分を吸収してくれるので都合がよろしい。無論、配合別に、袋詰めします。
うまく醗酵できたものは、森林地帯を歩いている時に嗅ぐ甘酸っぱい香りがあり、手で触っても、さらさらとしています。ぼかし肥に繁殖した菌が密生しているのです。
醗酵したぼかし肥
黒ポリ袋に詰込保管
4)使い方
使い方ぼかし肥は、化学肥料と異なり、微生物の集まりの生きた肥料です。乾燥させてありますが、菌が休眠しているだけなのです。水を与えると繁殖し始めます。この点に注意した扱い方があるのです。後日、述べます。
5)あとがき
ぼかし肥の作り方には、決まった方法がありません。要するに、自然の微生物の力を借りて醗酵させることです。一度、発熱させると、感動を覚えますので試してください。2~3回ぼかし肥を作ると要領がわかってきます。
ぼかし肥の使い方
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