怪異な山容の冠山

nonio

2021年03月18日 04:36

  
 数年前、揖斐川上流の総貯水量日本一を誇る徳山ダムに行った。
この奥に、ミステリアスな山容をした“冠山”があることを知った。その形姿が“冠”に似ているところからそう呼ばれている。
 この山は、福井県南東部から岐阜県にかけて広がる山深い越美山地にあり、県境には、夜叉ヶ池・能郷白山・平家岳など一段高い丘陵が1列に並んでいる。なかでも冠山は特異な姿形しており、人を引き付ける山である。それゆえ、「21世紀に残したい自然100選」に選ばれている。

古き時代の烏帽子冠に似た冠岳


 冠山がただならぬ突っ立っているので、木越しに山越しに、どこからでも眺められた。
多少のアップダウンはあるものの、標高1,200mの尾根伝いの快適な歩きとなった。
遠くを眺めると、民家も見当たらず、のびやかな丘陵地帯がひろがっていた。浸食から取り残された準平原の各所の固い残丘も長い年月の間に削られ、丸みを帯びていた。

 ふと気づくと、所々雲の間から僅かな太陽光が差し込み、幾重にも連なる山並みが、パッチワークのような絵模様になっていた。何だか動く気配も。
雲間をつきぬけてきた陽射しが山肌を照らしていた。同時に山並みに雲が映り込んでいたのだ。
 私にとっては、初めて意識した光景であった。 

パッチワークの絵模様のような山並み


 冠平から頂上までは一気に立ちあがり、岩場になった。急登を上り詰めると、爽快な頂上に達した。
金草岳、東側には能郷白山をはじめ、奥美濃の山々を求め、白山も探した。
この茫洋とした風景を堪能していたのだが、突然、光芒が出現。

 雲の切れ間から光が漏れ、尾を引くように幾重もの光柱が地上へ降り注いできた。
薄明の斜光が今まで見えていなかった山襞の陰翳を鋭くさせ、山沿い一帯が煌々ときらめきだした。天空のよろずの神々が降臨するかのような様相は、誰もが敬虔な気持ちになるものである。
 2020年11月5日、3時間半の短い山旅だったが、大自然の稀有な一コマに出合えたのは幸運だった。
 
山沿い一帯が煌々ときらめきだした光芒



 
 今回の山行きは、絆を深めたいつもの4人組ではなかった。コロナ禍がこんなところに影を落としていた。


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