山城と鏡山の縦走路間で、若木のリョウブが山腹を埋め尽くしていた。芽生え前の木だが、樹皮は薄く剥がれやすく、剥がれたあとは滑らかな薄い茶褐色となり、木肌の模様が面白いので、名前がすぐに判った。
このリョウブはどちらかと言えば、森林を構成する樹種でもなく、パイオニア的傾向が強いと言われている。が、 この写真では、リョウブが群生していた。どうしてこうなったのか、頭を絞ってみた。
私は滋賀県の森の女王といわれる数々のブナ林の姿を見てきた。横山岳・音波山の若木・安蔵山の成熟したミズナラとブナ林の原生林・ 音波山のブナ倒木後の世代交代・椿坂峠近くの生き延びた巨木・三重嶽のねじ曲がったブナ・・・・・・など。
若齢林では細いブナがびっしりと林立している。片や、成熟期を迎えているブナ林になると、一本毎の幹は太くなるが、極端に本数が減少している。何年もかかって自然淘汰されたブナ林帯を形成していた。
また、巨木のブナが何らかの原因で倒木していた。 それまで日陰で待機していた若木がこれから成長し、世代交代がこれから始まろうとしていた。ブナ林はいつも同じ姿をしているわけではなく、その時々の発達段階を見せていた。
さればと、「森林の遷移」を多少とも理解できるので、このリョウブ林について、勝手なストーリーを描いてみた。
この一帯は、風化しやすい花崗岩からなり、地滑りしやすい地形である。縦走路の尾根筋で、台風や大雨により多量の土砂崩壊が発生したのだろう。山崩れの証として、緩斜面に大石がかなり堆積していた。
山地の斜面が、根こそぎ土壌が流され、裸地面が露出したと思われる。そして崩落を免れたリョウブの木の種子が、さまざまな方向を裂開して、飛び出したのであろう。発芽・生長し、今の姿を出現させていた。それにしてもおびただしい種子である。
何気ない風景であるが、お互い若木同士は、熾烈な争いが起こっているのだ。
若木は、太陽に向かって、枝葉を競り合い懸命に張り合っているのである。僅かでも、先んじて太陽光を受けることができれば、周りの木を圧倒して、生き残れる。既に競争に負け、何本かの枯れ木もみかけられ、より一層このように感じ取れた。
これから何年もかかって、強いものが、勝ち残っていくのだろう。その上、陽樹のリョウブ林は陰樹に脅かされ、さらに生存が厳しくなるであろう。
希望が丘文化公園内には森・山・川が存在し、自然そのままの姿を残されている。人間よりはるかに永い寿命を持つ樹々の一コマは次のように語っている。
「我々森林が生き残っていく間に、洪水・火災・土砂崩壊などにより破壊されることがある。これを「攪乱」と言われる。人間社会において、これらは災害であると捉えられる。しかし、すでに生えている我々樹木たちには大きなダメージを受ける、一方で、新たに根づき、生育する木が出てくる新しいチャンスを産んでいる。まさに、我々森林は撹乱に適応し、育っているのだ」と。
☞滋賀の印象深いブナ林・ブナ林のある音波山・椿坂峠のブナ巨樹の語らい