山岳雑誌『山と渓谷』2013年8月号で、週末に楽しむローカル低山 を紹介する「郷山めぐり」において、比良山系の烏谷山(からとやま)の掲載があった。打見山(1108m)から北上して比良岳(1051m) ・烏谷山(1077m)を経由して、荒川峠から志賀駅に至るコースである。このコースは落葉広葉樹林帯が広がり、一日を緑の山々で存分に楽しめると、書かれていた。
さらに、 「多くの鞍部には、安曇川筋と琵琶湖西岸の集落を結ぶ峠道があり、古道の面影を各所に とどめている。南側の比良岳との間に葛川越(大物峠)があるものの、すでにその役割を終えた。一方、北側の荒川峠は、廃道化していたものが登山道として復活し貴重なルートになっている」。
一昔前の物静かな雰囲気に触れたいと思った。
今年の8月は異常に雨が続いた。西日本の総雨量が観測史上最多になったことなどを受け「平成26年8月豪雨」と命名された。
それにしても数値予報の精度は年々向上していると言われているが、あまりにも天気予報が的外れであった。「数値予報モデル」の格子点に気圧、気温、風などの観測データを入れて、時間変化をコンピュータで計算されている。だが、幾ら正確な観測データを打ち込んでも、前提条件が刻々変化するので、3日ほどの将来予想でも的外れになった。まして一週間先の予測など全く当てにならなかった。 烏谷山の山行計画(8月5日・26日・31日)を立てたが、ことごとく当日天気が悪化し、延期させられた。
9月3日は晴れ予想なので、出発した。
志賀駅からびわ湖アルプスのシャトルバスに乗り込み琵琶湖バレイロープウェイ乗り場に着いた。いきなり、「汁谷より夫婦滝葛川坊村方面への登山路は土砂崩れのため通行できません」との張り紙がしてあった。今回は坊村方面には入り込まないので、見捨てていったが、何と無くいやな感じを覚えた。
始発のロープウェイに数人の客と乗り込んだ。ゴンドラの後部窓から、湖北と湖南の境目の絞られた特異な姿をした琵琶湖が見えていた。山頂に近づくにつれて視界が悪くなり、ついに霧にすっぽり包まれてしまった。
ロープウェイの後部窓越しから堅田付近の絞られた琵琶湖を望む
四方数メートルの視界の中、山頂駅から汁谷へ向かうゲレンデをドンドン下って、木戸峠の道標を見つけ縦走路に入った。が、縦走路を通り抜けるのが精一杯であった。見通しのきかない前方に、次々と視界に黒い影がぼぉーと現れた。近づいていくと、木であったり、岩であった。 その内、霧も消えるだろうと思っていたが、その気配もなく、結局、荒川峠から下山して平地近くまで白い世界をさまよった。その結果、幻想的で滅多に見られない光景に出会えたことが何よりだと、自分に言い聞かせた。
湖西道路を潜り抜け、志賀駅の標示板を見て、ヤレヤレ1日が終ったことを実感した。
比良岳(1051m)・荒川峠の標識
視界数メートルの幻想的な自然林が広がっていた
霧が漂う緩い起伏を黙々と踏み越えていった
荒川峠から麓まで下山して、視界が開き琵琶湖が現われた
後日、今浜町なぎさ公園から比良山系を眺望