家棟川上流の川霧

nonio

2020年06月13日 08:19

 
 日の出前4時半ごろ、野洲市辻町から希望が丘西ゲートに向かう県道324号を自動車で走っていた。その日は、夜間の放射冷却により、空気がなんとなくヒンヤリとしていた。

 この道沿いには、家棟川が流れている。この川を割り込むように農業用水用ダムが、二つ設けられており、上流側は山上ダム、下流側は辻ダムと呼ばれている。 
大きい方の辻ダムの様子は普段と変わりなかった。ところが、希望が丘の西ゲート辺りまで行くと、道路をはみ出すように霧でもやっていた。
晩秋から初冬にかけて晴れた朝には、こうした風景が時たま見られたものだが、5月末になって霧が発生しているとは思いも寄らなかった。

 霧の発生源を見極めるため、自動車を降りた。
希望が丘内を流れている家棟川が、山上ダムに注いでいるカ所にやってくると、あっちこっちの水面から、渦をまきながら水蒸気柱が立ち込めていた。水の流に沿ってかすかに風が吹き込み、次々と山上ダムへ霧が流れ込んでいた。
冷たい空気が、水面から吸い上げるように蒸発が起き、その水蒸気が空気に冷やされて霧が発生したのであろう。川で見られる霧は川霧、湖なら湖霧などと呼ばれているが、要するに、気嵐が起こっていた。
この朝もやの雰囲気といい、やわらかく地上を漂う朝もやは、私にとって格好の写真の被写体に出くわしたと、心が騒いだ。

 さて、最近の私の撮影方法は、可変NDフィルターを取り付け、シャッタースピードを長くしていた。ゆったりとしたカメラならではの幻影を狙っていた。 
 「動かないで」「はいポーズ」と静止させて、写真を撮る場合のシャッタースピードが、「1/60秒」「1/250秒」程度であるが、それを「1秒」で準備していた。

 風に吹かれて流れる霧をスローシャッターで撮る空間とは、どのようなものか解説すると・・・。

 例えば、風向きは煙がなびくのでわかる微風の風速は、0.3~1.5「m/s」と言われている。この微風をシャッタースピード1秒ぐらいで写すと0.3~1.5m移動した霧の軌跡が画像に映し出されことになる。身近な世界が劇的に変わった画像になることが、容易に想像できるだろう。
霧の風景は不思議なもので、現実を突きつけるだけではなく、時間を束ねた幻想の世界へと誘ってくれるのだ。
 ただ、問題はシャッタースピードをこれほど遅くして撮影すると光の取り込み過ぎで、真っ白な写真になってしまう。それを防ぐために、濃度変化ができる減光フィルターを事前に取り付けていた。 

 千載一遇のチャンスと、夢中でシャッターを切った。とにかく急いだ。

 太陽が顔をのぞかせると、空中に浮遊していた霧は、その姿を空気に溶け込み、瞬く間に普段の光景に戻ってしまった。私の人生と同じように「雲消霧散」の言葉を実感した。居合わせたもう一人の写真家がおられたが、日の出と共に、何もなかったかのように、この場を去っていた。

 次の日、コントラストが自動補正できるDROなどにセッティングして万全を期して臨んだ。だが、肝心の霧がもう一つだった。昨日出会った人もやっぱり来ていた。お互い「駄目だね」と初めて挨拶をかわした。

 その後、朝早く訪れたが、すぐ帰宅した・・・。

 











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